戦略経営のプロセス

経営戦略の基礎を学ぶ -主な論点について-」の通り、経営戦略論に関する学びをまとめていきたいと考えている。

今回は「戦略経営のプロセス」についてをまとめていくこととする。

戦略経営プロセスに沿う理由

具体的なプロセスの内容に入る前に、何故、戦略経営のプロセスに沿うのかということについてまとめていきたいと思う。

戦略経営プロセスに沿う理由は、比較的シンプルで、確実な方法の下で戦略を練ることで、失敗しないようにするためである。

まずは何故、戦略経営のプロセスに沿うことが良いのかという点について、以下に引用を紹介したい。

ある企業の戦略が最善か否かを確定的に判断することが困難だとしても、ミスを最小限に抑えることはできる。

研究によれば、ミスを抑える最善の方法とは、一定の戦略経営プロセスに従い、慎重かつシステマチックに戦略を選ぶことである。

企業戦略論 戦略経営と競争優位 上 基本編(著:ジェイ・B・バーニー) P.31

戦略は一度実行を開始したら失敗する訳にはいかない。

成功率が5%だが10億円稼げる戦略と、成功率が80%で3億円稼げるのであれば、後者を選ぶ方が確実であろう。

戦略の定義でも述べたように、戦略は企業が選択するベスト・ベット(最善の賭け)である必要がある。

であれば、失敗が少なく、かつ確実に競争優位を獲得できる戦略を、推奨されているプロセスに沿って練ることは、最も堅実な方法であると言えるのでは無いだろうか。

戦略経営プロセスを学ぶ意義もそこにあると思う。

戦略経営プロセスの流れ

企業が戦略を練るにあたり、その策定には一連の流れが存在する。

戦略経営のプロセスを学ぶにあたり複数の書籍に目を通したが、その中でも企業戦略論で紹介されているプロセスが一番シンプルな流れでは無いかと考えている。

まずは、企業戦略論で紹介されている戦略経営のプロセスを紹介したい。

戦略経営プロセスの全体フレームワーク

それではここからは、企業戦略論で紹介されている全体フレームワークを紹介する。

各プロセスについての紹介は次回の記事でまとめる予定であることから、個々のプロセスがどういったものかについては言及しない。

企業戦略論で紹介されているプロセスは、戦略経営プロセスの軸を端的に表した流れとなっている。

その流れは、

  • ミッションの策定
  • 目標の設定
  • 外部環境の分析
  • 内部環境の分析
  • 戦略の選択
  • 戦略の実行
  • 競争優位の獲得

という7つからなる。

最後の競争優位の獲得については、プロセスというよりかは結果であることから、実際には6つのプロセスとしても良いかもしれない。

これらの流れを順を追って進めていくことで、ベスト・ベットとなる戦略を実行することが可能となる。

A-S-Pモデルによる戦略経営のプロセス

ここからは、戦略経営論で紹介されているA-S-Pモデルについて紹介していく。

企業戦略論で紹介されている戦略経営のプロセスの応用編というと語弊があるかもしれないが、もう少しプロセスが細かくなったプロセスがA-S-Pモデルである。

A-S-Pモデル自体の紹介に入る前に、まずは戦略経営論における戦略経営のプロセスの定義と、A-S-Pモデルの言葉の意味を紹介する。

まずは、戦略経営のプロセスの定義を紹介する。

戦略経営のプロセス(strategic management process)とは、ある企業が戦略的競争力を獲得し平均を上回る収益性を達成するのに必要とされる、コミットメント、意思決定、そして行動の組み合わせのことである。

このプロセスは、分析、戦略そして業績(A-S-Pモデル)と関連している。

戦略経営論 競争力とグローバリゼーション (著:マイケル・A・ヒット他) P.9

言葉がやや難解であるが、私の捉えた理解で解説をしていきたい。

企業は平均を上回る収益性を達成するために、自らが何かを成し得たいとする顧客へのコミットメントを宣言する。

これはビジョンやミッション、目標にあたるものであり、顧客など外部のステークホルダーの目にも触れることになる言葉である。

その宣言をしたコミットメントを実現するために、企業は様々な意思決定を行うこととなる。その中心は戦略の策定によるものだろう。

そして戦略策定に関する意思決定を行った後は、実際に行動をする局面に入る。

これらの組み合わせが戦略経営のプロセスであるとしているのが、戦略経営論の戦略経営のプロセスである。

A-S-Pモデルの流れ

ここからはA-S-Pモデルの流れについて、より具体的にまとめていく。

A-S-Pモデルとは、Analysis、Strategy、Performanceの3つの頭文字をとったプロセスモデルである。

このプロセスモデルは循環するような流れとなっている。

ビジョンとミッション策定、外部・内部環境分析の他に、戦略の策定が6つ、戦略の実行の部分が4つに分解されて成り立っており、14からなるプロセスで構成されている。

以下にA-S-Pモデルについて説明している引用を紹介させて頂きたい。少し長いがご容赦頂きたい。

プロセスの第一歩は、外部環境と内部環境を分析(A:analysis)して、外部の機会と脅威を特定すること、そして内部の経営資源、ケイパビリティ、コア・コンピタンスを認識することから始まる。これら分析の結果が企業の戦略選択に影響を与える。

このモデルの戦略(S:strategy)作業は、戦略策定と戦略実行からなっている。

外部環境や内部組織の分析から得た情報に基づいて、企業はビジョンとミッションを決定し、戦略を策定する。

この戦略を実行するため、企業は戦略的競争力を獲得し、平均を上回る収益性(業績、P:performance)を達成する方向に向かって行動に移さなければならない。

戦略経営論 競争力とグローバリゼーション (著:マイケル・A・ヒット他) P.9

A-S-Pモデルでは、分析フェーズで外部の機会と脅威を特定と、内部資源等の認識することが、ビジョンとミッションの策定のインプットとして用いられている。

企業戦略論の戦略経営プロセスではミッションと目標を策定してから外部環境と内部環境の分析に入るという流れであったことから、ここは違いの1つとして理解しておいた方が良いと思われる。

ビジョンとミッションに基づき戦略を策定する、その後に戦略の実行がなされるという点は共通である。

しかし図だけで捉えてしまうと、戦略の策定と実行が同時並行的に進んでいくようにもみえることから、このあたりもA-S-Pモデルの特徴の1つかもしれない。

戦略の策定、戦略の実行の内容として分解されたプロセスは、経営学の論点として語られるべき内容であり、企業戦略論の中では中巻、下巻で紹介されているトピックとなっている。

以上が、A-S-Pモデルの紹介である。

骨格と全体を捉える

企業戦略論における戦略経営プロセスも、戦略経営論における戦略経営のプロセスも、企業が競争優位、もしくは平均を上回る収益性を達成するための行動であることは変わらない。

多少のプロセスの違いはあれど、達成したい最終的なゴールは共通である。

私の中では、

  • 企業戦略論における戦略経営プロセスは、プロセスの骨格部分にフォーカス
  • 戦略経営論の戦略経営のプロセスは全体感を捉えることにフォーカス

しているのでは無いかと推察している。

経営学を学ぶ人へ向け、筆者の方が何を重視して伝えたいかによる違いから来るものかもしれない。

今回のまとめ

今回は「戦略経営のプロセス」とは何かについてをまとめた。今回の内容を要約すると以下の通りとなる。

  • 戦略経営のプロセスは、確実な方法の下で戦略を練ることで、失敗しないようにするために用いられるプロセスである。
  • 戦略経営のプロセスは、大きくは以下の流れの沿って進められる
    • ミッションや目標の策定
      → 外部、内部環境の分析
      → 戦略の選択
      → 戦略の実行
      → 競争優位の獲得 
  • 戦略経営プロセスの1つであるA-S-Pモデルは、A: Analysis、S: Strategy、 P: Performanceの頭文字からなる

今回はここまでとする。今後も継続的に経営戦略の学びを深めていくつもりだ。

参考書籍について

参考書籍の一覧については、「経営戦略の学びに用いた関連書籍」に参照先の書籍をまとめている。

引用先を確認されたい方は、そちらを参照頂きたい。