世界標準の経営理論

入山章栄著、「世界標準の経営理論」(以降、本書とする)に関し紹介させて頂く。

経営学を専攻する学部生や大学院生だけでなく、ビジネスマンにとっても有益な知識を提供してくれる一冊となっている。

概要紹介

まず概要に入る前に、本書はとても分厚いということをお伝えしたい。

その理由は、30からなる世界の主要経営理論を網羅しているからであるが、頭から読まずとも良い構成となっているため、非常に重宝する構成となっている。

本書ではその30の経営理論を、3つの学問分野、経済学、心理学、社会学に分け、「理論ディシプリン」として分類し、その経営理論がどの学問から応用されたのかをわかりやすくまとめてくれている。

(本書の構成としては、心理学をさらにマクロ心理学とミクロ心理学に分類した構成となっている。)

また、もう一つの切り口として、ビジネス現象と理論を結びつけてくれているという点もありがたい。

更には、経営理論の組み立て方、実証の仕方の説明が加わり6部からなるのが本書の構成である。

以下が、その全6部の目次である。

  1. 経済学ディシプリンの経営理論
  2. マクロ心理学ディシプリンの経営理論
  3. ミクロ心理学ディシプリンの経営理論
  4. 社会学ディシプリンの経営理論
  5. ビジネス現象と理論のマトリックス
  6. 経営理論の組み立て方・実証の仕方

経済学ディシプリンの経営理論

経済学ディシプリンの経営理論では、経営学を学ぶ上で必ずと言って良いほど紹介される、SCP理論やリソース・ベースト・ビュー(RBV)という理論を中心に話が構成されている。

他の経営学書籍の中では、SCP理論を用いて外部環境分析、RBVで内部環境分析を行うといった形で、これらの理論がどうやって成り立ったのかという点に触れることはない。

そのため、本書を読むことでより深いが得られることから、経営学を学ぶ人の理解を更に深めることができる。

その他、エージェンシー理論、取引費用理論、ゲーム理論についても説明がある。

マクロ心理学ディシプリンの経営理論

この領域で最も学び深かったものは、「知の探索・知の深化理論」だろう。

両利きの経営として知られるこの理論は読んでいて非常に興味深かった。

その他、

  • BTF理論
  • 組織の記憶の理論
  • SECIモデル
  • 認知心理学ベースの進化理論
  • ダイナミック・ケイパビリティ理論

の説明がある。

ミクロ心理学ディシプリンの経営理論

この領域では主にリーダーシップやモチベーションに関する理論について言及されていく。

私個人としては、リーダーシップ理論が学び深かったと感じており、本書でシェアードリーダシップを学び、「採用基準」という書籍を読むきっかけになったことがある。

その他、以下の理論の説明がある

  • 認知バイアスの理論
  • 意思決定の理論
  • 感情の理論センスメイキング理論

社会学ディシプリンの経営理論

この領域は、現在のソーシャル・ネットワークやデジタル領域のビジネスとの関連性が深い理論について語られていく。

特に「弱いつながりの強さ」理論は興味深かった。ソーシャル・ネットワークを活かしたビジネスを行っていきたいと思うような方は読んでおいて損はないだろう。

その他、以下の理論が紹介されている。

  • エンベデッドネス理論
  • ストラクチャル・ホール理論
  • ソーシャルキャピタル理論
  • 社会学ベースの制度理論
  • 資源依存理論
  • 組織エコロジー理論
  • エコロジーベースの進化理論
  • レッドクイーン理論

ビジネス現象と理論のマトリックス

この第5部では、ビジネス現象と理論を紐づけて話すことをしてくれている。

経営学の教科書などで良く書かれる内容と結びつけて話を展開してくれているので、この理論は経営学の教科書の中のどこで用いられるのだろうとなった時に重宝する。

私個人的には、戦略の定義も書かれている、「戦略とイノベーションと経営理論」の章が最も興味深かったが、その他、以下のビジネス現象についての紐付きを紹介されている。

経営学の勉強を過去にしたことがある方にとっては、馴染みのある章構成かもしれない。

  • 組織行動・人事と経営理論
  • 企業ガバナンスと経営理論
  • グローバル経営と経営理論
  • アントレプレナーシップと経営理論
  • 企業組織のあり方と経営理論
  • ビジネスと経営理論

経営理論の組み立て方・実証の仕方

最後となる第6部は、そもそも経営理論とはどういったプロセス、考え方に基づいて組み立てていくのかという点について言及されている。

個人的な所感だが、経営理論とはビジネス現象や行動を抽象化し、誰もが納得できるような形に落とし込んだ理論ではないかと考えている。

そうした場合、正しく論理展開をしないと話が破綻してしまうし、簡単に論破されてしまうだろう。

そうした事がないように、正しいステップ、正しい考え方で理論を展開することは必要であるため、その方法論について説明していくれているのが、ここの第6部だと捉えている。

ビジネスにおいても論理的に物事を話すということは重要である。

学術的なまでに厳密でなくても話の流れが通っていない説明をしていては、仕事をする上でも相手にされないだろう。うまくビジネスにおける現象を話せないと感じている人にとっては、その一助となる章になるはずだ。

第6部は3章構成で、以下で成り立っている。

  • 経営理論の組み立て方
  • 世界標準の実証分析
  • 経営理論のさらなる視座

所感

本書は30からなる世界の主要経営理論を網羅しており、頭から順々に読まずとも良く非常に重宝する作りとなっている。

個人的には序章と第1部のSCP理論とRBV理論に関して書かれている部分までは続けて読まれる方が良いと考えているが、以降は気になる章から読むのが良いと思う。

私自身、本書を初めて手に取ったのは1年以上前だったが、今でも、

  • この理論はどういったものだっただろうか?
  • この考え方はあの理論に関連するものではないだろうか?

といったことがある時には、本書に立ち返るようにしている。

このように経営理論に関する辞書的な使い方もできることから、何年にも渡って読み続けられる一冊である。

私は電子書籍版と紙媒体版の両方を所有しており、一度目は電子書籍で読了している。

800ページを超える一冊を持ち歩くことは容易ではないので、本書の読了を優先されたい方は電子書籍版を購入すると良いと思う。

その上で、辞書的に利用する必要性が生じた時には紙媒体版でも持っておくのが良いのではないか。

本書の序章でも述べられているが、経営学の教科書に用いられるような書籍は、各理論にフォーカスして書かれていない。

そのため、本書のように理論を中心にまとめられている一冊があると、何故がわかることから、経営学の教科書に書かれている内容の理解促進をしてくるものと思う。