競争とプラットフォーム

本記事にて、『DX デジタルトランスフォーメーション戦略立案書』(デビッド・ロジャース著、笠原栄一訳、以降本書とする。)からの学びをまとめる。

今回は「競争とプラットフォーム」と題し、本書からの学びをまとめていく。

5つのカギとなる領域

デジタルが変化させている5つの戦略領域」の記事にて、5つの領域の変化を捉えていくことが必要になってきているということを述べた。

その領域というのが、以下の5つであり、CC-DIV(シーシーディブ)と呼ばれている。

  • C:Customers 顧客
  • C:Competition 競争
  • D:Data データ
  • I :Innovation 革新
  • V:Value 価値

今回はそのうち、競争についてのテーマを扱う。

競争か協働か

これまでの競争では、同一の業界内でかつ似たような競合同士間での競争が繰り広げられることが多かった。

しかし、デジタル時代となった現在、その定義が曖昧になりわかりにくくなっているということを本書では示唆している。

デジタル時代になって、業界の境界はあいまいになり、パートナーと競合の区別もあいまいになりつつある。今日、企業のあらゆる関係は、競争と協働が混在する複雑なものとなっている。

ある領域においては競合とみなされる企業が、別の領域においてはパートナーシップを組むということも今では珍しくない。

以下、アナログ時代とデジタル時代の戦略的前提の変化を本書から引用させて頂きたい。

このような環境下において、相手が競合企業なのか協働企業なのかを分類することは一筋縄ではいかないような状況になっている。

本書では市場を多面的に捉えることが大切であると言っており、とりわけプラットフォームを用いたビジネス・モデルは有効であることを教えてくれている。

プラットフォームとは何か

ここからはプラットフォームについてを考察していきたいが、まずはプラットフォームの定義から入っていきたい。

本書においても、プラットフォームの定義は難しいとしているものの、わかりやすい言葉に表してくれている。以下がその引用だ。

プラットフォームとは、2つまたはそれ以上の異なるタイプの顧客の直接的な相互作用を促進することで価値を作り出す事業のことである。

これはアンドレイ・ハギウ氏とジュリアン・ライト氏の研究からの要約をしてくれているものである。

上記の定義に加えて、ハギウ氏とライト氏が考案した3つキーポイントがあることから、そちらについてもまとめていきたいと思う。

3つのキーポイント

異なるタイプの顧客

プラットフォームとなるビジネス・モデルには、売り手と買い手、ソフトウェア開発者と消費者、商業者とカード保有者と銀行といった、立ち位置とタイプが異なる2種類以上の顧客が必要である。

プラットフォームビジネスにおいては、立ち位置の異なる顧客がそのプラットフォームを利用してもらうことを考えなければならない。

これまで異なる立ち位置にいた顧客をプラットフォーム上に集めることでその効果を発揮することができる。マッチングサービスやクラウドファウンディングなどは、まさにその典型だろう。

ビジネス的取引が生まれそうな2種類以上、相手同士を結びつけることでそのプラットフォームに価値が生まれるようになる。

直接的相互作用

2つかそれ以上の立ち位置の人々が、一定の独立性を保ちつつ、直接やりとりする機会を持つことがプラットフォームによって可能となる。

この直接的相互作用により、プラットフォーム提供者が間に入り一定のルールやポリシーを持った中で、顧客間で直接やりとりをすることが可能になる。

メルカリを例に取ると、メルカリでは商品を提供した提供者自身が、自分の裁量で価格を設定し、購入希望者と交渉を行うことができる。

促進

相互作用はプラットフォーム・ビジネスによって命令されるものではないが、プラットフォーム経由で行われ、プラットフォームによって促進される。

3つめの促進は捉え方が難しいところであるが、私の理解は以下の通りである。

プラットフォーム・ビジネスにおいては支店やフランチャイズ・ビジネスのように、本社組織からの指導や指示を受けてビジネスをするということは行われない。

全てプラットフォーム上で完結し、かつ顧客同士が自由に取引を行うことができる。プラットフォーム側の定めるルールやポリシーに則りさえすれば、提供者側からの強制力というものは働かない。

この自由さが好まれ、顧客がプラットフォームを利用してくれればくれるほど、相互作用は促進されプラットフォームの価値が高まっていく。

4つのタイプのプラットフォーム

本書では、プラットフォーム・ビジネスは4つのタイプに分かれるということを教えてくれている。1つずつ紹介していきたい。

ただし、以下の4つのタイプは現時点のものであり、今後もタイプが増えたりすることがあることは忘れてはならない。

交換

マーケット・プライスとも呼ばれるこのタイプのプラットフォームは、2つの異なる顧客グループを結びつけ、直接、価値を交換させる。

交換のタイプはわかりやすいタイプであり、プラットフォーム・ビジネスの基本形になるようなものだと思う。

異なるタイプの顧客を引き合わせ、結びつけ、取引を行なってもらうために交換タイプのプラットフォームは存在する。

Airbnb、Uber、メルカリなどが交換タイプのプラットフォームに該当するだろう。

取引システム

プラットフォームは二社間の決済や金融取引を促進する仲介機能を果たす。

ウェブビジネスにおいて手間になると思われているのがお金に関する取引部分である。

買いたいものがある人と、売りたいものがある人が、ウェブ上で引き合うことができても、お金をやり取りする手段が面倒になると途端に取引確度が下がってしまう。

そうした場合、こうした決済機能を提供するプラットフォームがその問題を解消してくれるだろう。

ペイパルやビットコイン、Apple Payといったものが取引システムの例に該当する。

広告付きメディア

このケースでは、プラットフォームは消費者にとって魅力的なメディア・コンテンツの創出(または調達)という役割を果たす。

本書ではニュースサイトの例が用いらているが、ニュースサイトでは専門的なコンテンツを提供してくれるライターが必要になる。

そのプラットフォームに参加する顧客自身がライターの立場として、良いコンテンツを提供してくれれば、そのプラットフォーム自体の価値が高まり、プラットフォームに設置する広告の価値も高まるようになる。

例としては広告付きウェブ・サイトや、広告付きソーシャルネットワークが該当する。

ハードウェア/ソフトウェア標準

このプラットフォームは、後発製品の設計に関する標準的な基準を提供し、相互運用性を実現することで、最終消費者に利益をもたらす。

この例はApple Storeをイメージするとわかりやすいと思う。

AppleではiPhone上で利用することのできるアプリケーションを開発してくれるソフトウェア開発者にソフトウェア・プラットフォームを提供してくれている。Googleでも同一の仕組みは存在する。

この仕組みに乗りたいとするソフトウェア開発者が多数存在し、事実上この2社のソフトウェア・プラットフォームを利用するということが業界標準にもなっている。

デジタルが与えるプラットフォームへの影響

続いて、デジタルが与えるプラットフォームへの影響についての学びをまとめたい。

デジタル技術はプラットフォームビジネスを提供するにあたり、相性が良い技術だと思う。交換というビジネスは太古の時代から行われている商取引であるが、デジタル化がその舞台をオンライン上にさせたと言って良いだろう。

本書では、プラットフォームを構成する4大要素の原動力としてまとめられている。

スムーズな顧客獲得

ウェブ、API、SDK(ソフト開発キット)のおかげでプラットフォームが新規顧客を獲得するプロセスはますますスムーズになっている。

引用にあるようなデジタル技術は、プラットフォームでの顧客獲得を容易にさせた代表技術である。

ウェブサイトを立ち上げたいと思った時に、ほとんどソースコードを書かずとも立ち上げることが可能だ。さらには、あらゆるウェブサービスがAPIを公開してくれているおかげで、自分が顧客に提供したい価値をAPIがすぐに与えてくれるだろう。

こうしたリアルな世界で苦労することをウェブの世界では簡単に行えるようになったことで、スムーズな顧客獲得が期待できる。

拡張可能な成長

クラウド・コンピューティングにより、どんなビジネスでも新規顧客を獲得するのと同じ速さで、プラットフォームの規模を急速に拡大することができる。

引用の通り、ウェブの世界では自分の提供するビジネスの大きさに合わせて、拡張ができるようになってきた。

加えて、交換型ビジネスにおいては、実質的に無限に成長することができる。Airbnbはその代表例だろう。

リアルな世界においては、実店舗を提供するスペースや場所を確保しなければビジネスが行えず、拡張するためには新たなスペースを獲得しなければならない。

オンデマンドのアクセスとスピード

モバイル・コンピューティングのおかげで、今やあらゆるプラットフォームがあらゆる時間帯、あらゆる場所で顧客にアクセスできるようになった。

リアルの場合、店舗に行かない限りはサービスの提供や製品を購入するということは行えない。営業時間も限られているし、移動も必要になる。

しかし、今はスマートフォンとインターネットに接続さえできれば、いつでもどこでも商取引は行える。まさにオンデマンドである。

デジタル技術、特にモバイル・コンピューティングがこうした状況を可能にさせている。これは大きな機会創出になっているだろう。

信頼

プラットフォーム・ビジネスにとって、匿名性はあまりありがたいものではない。

・・・、そしてFacebook、Google、Twitter、LinkedIn経由で行われる顧客認証のおかげで、小規模なスタートアップ企業も自社のプラットフォーム上で今までよりはるかに簡単に新規顧客を認証できるようになった。

ユーザ認証はウェブビジネスにおける1つの鬼門であるが、大規模ソーシャルネットワークサービス企業が既に顧客認証を肩代わりしてくれることで、その問題を解決してくれるようになっている。

スタートアップ企業もこうした手間のかかる領域にコストや時間をかけずに、提供したいビジネス自体に注力できるようになるし、顧客拡大にもつながる。

利用顧客からみても、いちいちアカウント登録をしなくて済むという手間の削減は嬉しいところだと思う。

プラットフォームの競争上の効用

最後にプラットフォームの競争上の効用についての学びをまとめたい。

プラットフォームのビジネスモデルのメリットを理解することは、デジタル時代の企業の成功に繋がるはずだ。

資産が少ない

プラットフォームは、自身の価値の大部分を生む仕事を顧客にやってもらうため、その保有資産は少なくなりがちだ。

Airbnbのような企業では、資本と営業経費が両方とも少ない。また、これらの企業では、生み出される収益に対して社員数が少なくなりがちだ。

プラットフォーム・ビジネスでは売り手と買い手、サービスの提供者と需要者を引き合わせるようなビジネス展開が基本となる。

そのため、「場」さえ提供することができれば、あとのものは必要ないということになる。

更には舞台がウェブ上であることから、優秀なエンジニアとコンピュータさえあればビジネスが提供できてしまうので、利益率が高いビジネスを行うことができる。

スピーディな規模拡大

プラットフォーム・ビジネスは、きわめてスピーディに成長できる。低い営業経費とクラウド・コンピューティングのアーキテクチャが持つ拡張性のおかげだ。

プラットフォーム・ビジネスを支えるクラウド・コンピューティング技術は、ウェブサービスの急拡大を支えてきた。

必要な時に必要な性能を利用すれば良いので、ビジネス規模に応じてコンピュータも拡張すれば良いという仕組みはプラットフォーム・ビジネスにとって大きい効用になっている。

勝者一人勝ち

あるプラットフォームが一度特定カテゴリーで支配的地位を確立すると、ネットワーク効果の力により、似たサービスを提供する直接的な競合他社のビジネス立ち上げはきわめて難しくなる。

この勝者一人勝ちの構図はわかりやすい。GAFAはまさに勝者の例にふさわしい。

プラットフォームビジネスを展開する側にとって、ニッチな市場であっても、いかにして支配的地位を確立することができるかがビジネス成功の鍵になることは間違いない。

経済的効率性

プラットフォーム・モデルの最大の効用は、それがなければ有効に使えないような(労働力、資産、スキルなどの)経済的価値を秘めた資産を効率的に使えるようになることだ。

AirbnbやUberといったサービスは、空きスペースや自動車に乗っている間の空き時間を活用したサービスである。

最近では自分のスキルを活用して隙間時間に副業を可能にするといったサービスも増えてきている。

プラットフォーム・モデルを用いれば、これまで経済的価値になり得なかったようなものも価値化することができる可能性を秘めている。

こうした効用についても理解しておく必要があるだろう。

競争と協力を捉え直す

最後に、本書の該当章の最後に書かれている一節を引用させて頂き、今回の記事を終えたいと思う。

デジタル時代を生きる企業は企業間の競争と協力について、ダイナミックな理解が求められる。

憎き敵、真のパートナーシップという単純すぎる見方を換え、自社をめぐるあらゆる企業間の関係は競争と協力が複雑におりなされた関係であると捉え直そう。

プラットフォーム・ビジネスが生まれる起点は、企業間の関係性が競争をしているのか協力をしているのか分類することが難しくなってきているというところから話が始まった。

ある時はパートナーであり、ある時には競合になる。

デジタル時代においては一方向の視点だけでは語れない世界になってきているのだろう。そうした時代において、プラットフォーム・ビジネスは有効なビジネスモデルになる。

今回の学びで、デジタル・トランスフォーメーションを考えるにおいて、プラットフォーム・ビジネスを理解することが重要な点になるということを学ぶことができた。

次回は、CC -DIVにおけるD:データについてをまとめていきたいと思う。