顧客の5つの核となる行動
本記事にて、『DX デジタルトランスフォーメーション戦略立案書』(デビッド・ロジャース著、笠原栄一訳、以降本書とする。)からの学びをまとめる。
今回は「顧客の5つの核となる行動」について、本書からの学びをまとめていく。
5つのカギとなる領域
「デジタルが変化させている5つの戦略領域」の記事にて、5つの領域の変化を捉えていくことが必要になってきているということを述べた。
その領域というのが、以下の5つであり、CC-DIV(シーシーディブ)と呼ばれている。
- C:Customers 顧客
- C:Competition 競争
- D:Data データ
- I :Innovation 革新
- V:Value 価値
今回はそのうち、顧客についてのテーマを深く掘り下げていきたいと思う。
顧客を再考する
デジタル時代における顧客についてを再考するということは、戦略を練るために必要な1stステップとなる。
本書においても以下のように述べられている。
デジタル経営変革の戦略立案書を作成するにあたり、まず見直されるべき戦略領域は顧客である。
デジタル時代において、顧客の行動は劇的に変化してきた。
本書を読み、顧客行動における変化として私が感じているのは、一方向から多方向へということである。
以下の表は、デジタル時代にかけて、戦略的前提がどう変化したかをまとめている表となる。本書から引用させて頂きたい。
デジタル時代の顧客は、受身的に企業から提供されるプロダクトやサービスを提供されるだけの存在ではなくなってきている。
ソーシャルネットーワークの活用やコミュニティへの参加、顧客一人一人がプロダクトやサービスの価値を評価し発信する、といったこともこれまでより容易に行うことが可能だ。
企業はそうした顧客の情報発信を敏感に捉え活用することで、価値の高いプロダクトやサービスを生み出すことを顧客から期待されている。
そうした背景から、「企業 → 顧客」という一方向の流れだけではなく、「企業←顧客」という双方向的な流れになっていることを理解しなければならない。
以下にデジタル時代の顧客の動きについて、うまく表現されている一節を引用させて頂きたい。
デジタル時代の顧客は、単なる受け身の消費者ではない。
顧客はダイナミックなネットワークの結節点となり、互いにやりとりしつつ、ブランドやマーケットを育て、互いを育てる。
企業はこうした新しい現実を認め、それを踏まえて顧客に接する必要がある。
5つの核となる行動
それでは、顧客に対し企業はどう関わっていけば良いのか。
その答えを模索するにあたり、考慮すべき行動として本書の中で紹介されているものがある。
それが、顧客にデジタル体験と相互作用をもたらす5つの核となる行動であり、以下の5つがその核となる行動である。
- 接続 (access)
- 参加 (engage)
- 適応 (customize)
- 結合 (connect)
- 協働 (collaborate)
この5つの核となる行動に対して戦略を練ることで、顧客行動に対する理解を深め、どういったアプローチを取るべきなのかについての見聞を深めることができる。
接続 (access)
顧客はデジタル・データやコンテンツ、相互作用に可能なかぎり迅速に、簡単にそして柔軟に接続(アクセス)したいと考えている。
1つめの行動は接続 (access)である。
引用にある通り、デジタル時代の顧客は自分の求めるデータやコンテンツにいかなる時にもアクセスしたいと考えている。
どういった場所においても、そしてどういった媒体からでも、自分が求めたい情報に対しアクセスできるようになっていてほしいと考える欲求は、私自身に当てはめても理解することができる。
接続(アクセス)方法を向上させることで、顧客との接点となる入口を増やすことができることから、しっかりとした戦略を練る必要があるだろう。
接続戦略のポイント
本書においても接続戦略のポイントとして、以下のように述べている。
接続戦略とは、より早く、より簡単に、いつでも、どこでもアクセスできるようにすること、そして常に顧客とつながっている状態を作り出すことだ。
私は「常に顧客とつながることができる状態」を目指すことが、接続戦略の究極的な状態なのだと捉えた。
その状態に近づけるにはどうすべきかを考えることで、より高い接続戦略を目指すことができるのではないだろうか。
他方、接続戦略を練るにあたり注意すべき点を一つ発見した。それはリアルでの接続を忘れてはならないということだ。
デジタル時代における顧客体験は、デジタルとリアル、双方での体験を実現することが重要であり、統合された体験として提供する必要がある。
デジタルだけ、リアルだけでの体験提供では完結されないことを肝に銘じる必要がある。
参加 (engage)
顧客は感覚的で双方向で、かつニーズに合ったデジタル・コンテンツに参加したいと考えている。
2つめは参加 (engage)である。
この参加の概念の理解は少し難しいところであるが、私が捉えた理解では、顧客は興味を持った対象に対するコミュニティに参加をしたいという点である。
企業側からみれば、コミュニティが生まれやすい環境や仕組みづくりを行い、プロダクトやサービスのブランド力を高めることで、顧客が製品から離れなくする必要がある。
本書での参加戦略においては、「製品デモ」、「ストーリー・テリング」、「有用性」、「発行者としてのブランド」といったものが紹介されている。
「製品デモ」にて、まずはプロダクトやサービス自体をデモを行うことで顧客に製品自体の魅力を伝える。
「ストーリー・テリング」を用いて、その製品が生まれた背景や製作者の想いを伝えることで、製品の価値を高める。
BTSのARMY戦略、プロセス・エコノミーのような思考が近いのではないかと捉えている。
「有用性」のあるコンテンツを顧客に提供することで、顧客体験を深めてもらうことができる。本書の事例としては、コロンビア社モバイル・アプリが紹介されている。
「発行者としてのブランド」は、製品から離れた個別のコンテンツを提供するが、それらが間接的に製品を惹きつけた結果として、製品の価値を高めるといった戦略だと理解した。例として、バーニーズ・ニューヨークのオンライウェブサイトとは、別の「ザ・ウィンドウ」というオンラインマガジンが紹介されている。
こうした戦略を練ることで、多様化するメディアを活用しつつ、顧客関係性の強化図る必要があるだろう。
適応 (customize)
顧客は情報、製品、サービスの幅広い集合体の中から選択肢、自分なりに修正を加えて、経験をカスタマイズしたいと考えている。
3つめは、適応(customize)である。
現代の顧客は、何年もの間デジタル・ネットワークを渡り歩き、数ある製品の中から自分にあったもの選ぶという行動に慣れている。
本書ではデジタル・ネットワークに鍛えられた顧客と表現しているが、そういった顧客は自身にカスタマイズされた体験を求めるようになっている。
企業から見れば、顧客の要望に応えられるようなカスタマイズ手法や機能を提供しなければならないということになる。適応戦略におけるアプローチではそういった点が考慮されている。
本書では推奨エンジン、個別適応したインターフェイス、個別適応した製品サービス、個別適応したメッセージとコンテンツ、といったものが適応戦略のアプローチとして紹介されている。
総合すると、以下の引用に考えを集約することができるだろう。紹介させて頂きたい。
適応戦略のカギは、顧客のニーズや行動が異なっている領域を特定し、特定顧客向けに個別適応したり、顧客自らの自分の体験を最適化できるツールを適応することになる。
結合 (connect)
顧客は自らの経験やアイディア、意見を、テキストや画像、ソーシャルリンクを通じて互いに共有し、つながりたいと考えている。
4つめは、結合(connect)である。
SNSの普及で自らの意見や考えを発信することがデジタル時代では容易になっている。
共通の意見や想いを持った顧客同士が繋がり、コミュニティを形成するということはウェブの世界においてはよもや普通の状態であるといっても過言ではない。
企業はそのようなコミュニティに参加したり、顧客の質問や問題を一緒になって解決することで、より一体的な関係性を築くことができる。
接続戦略としてはそういった点を考慮したアプローチ方法が多い。
ソーシャル・リスニング、ソーシャル顧客サービス、会話への参加、といったアプローチは、顧客と共に結合を深めるといったアプローチである。
これらのアプローチは、FacebookやTwitter、LinkedInといったコミュニティを利用するような手法に見てとれるが、自らがオンライン・コミュニティを運営することもアプローチの一つである。本書ではコミュニティの運営として紹介されている。
その他、特徴的なアプローチ手法としては、ソーシャル・メディアを通してアイディアやコンテンツの依頼を、直接顧客に提供を求めるということも一つである。
協働 (collaborate)
社会的動物である人間は、誰かと一緒に何かを成し遂げたいと考えるようにできている。
その結果、顧客はオープン・プラットフォームを通じて、共通のプロジェクトや目標のために共同しようとする。
最後は協働(collaborate)である。
このレベルの行動は、より高いレベルで目標を共に達成したいという顧客がとる行動である。
昨今では利益優先ではなく社会課題の解決を重視する時代であり、誰かのために何かをしたいという欲求を無視することはできない。
企業側からみると、そのような熱意のある顧客を招き入れて事業を構築し、支援をしてもらえるようなプラットフォームや仕組みを提供するべきであり、それが協働戦略になると考えている。
協働戦略のアプローチには、受動的貢献と能動的貢献がある。
受動的貢献とは、顧客の同意の下、顧客が取るアクションから得られる情報を間接的に活用させてもらうというアプローチである。
本書では、Wazeのナビゲーションアプリの例が紹介されている。Wazeのモバイル・アプリを起動させた状態でドライブすることで、顧客は渋滞状況と目的地までの最短経路をWazeに提供することになる。
能動的貢献とは、直接的に顧客に支援を依頼するアプローチで、報道サイトや番組が顧客が投稿した動画をサイトや番組内で紹介するという手法は典型的な例になるだろう。
その他、クラウド・ファンディングやオープンコンペ、協働プラットフォームを提供するというのものアプローチとして紹介されている。
締めくくりとして、協働戦略を練る上で忘れてはならない視点がある。それは、
協働戦略のカギとなるのは、貢献してくれる人の動機を理解することだ。
なぜ、その人が貢献したいのかを追求することで、より協力を得られることは間違いない。
動機を理解することとで顧客と企業がより協働的に行動できるようになるだろう。
顧客の行動を理解し戦略を練る
ここまで「顧客の5つの核となる行動」について考察していった。
私もこれら5つの行動にフォーカスすることで、デジタル時代の顧客の行動が捉えやすくなったと考えている。
デジタル時代においては、5つそれぞれの行動に基づいて必要な戦略を練ることが求められているということを学んだが、本書では「顧客ネットワーク戦略ジェネレーター」として、Howのレベルにまで言及してくれている。
この記事での紹介は割愛するが、有用なツールとなってくれことは間違い無いだろう。
次回は2つ目のC、Competition 競争について学んでいきたいと思う。