野球の科学

「野球の科学」という本を読みました。

筑波大学で大学の先生をされている川村 卓さんという方が著者で、過去に「新しい少年野球の教科書」という本を読んだことがありました。以降、川村先生の著書は今後も読みたいと思うようになり、その二冊目です。

概要紹介

本書は科学的に野球を分析し、合理的に野球の動作やプレー戦術を考察しています。

大きく三部構成になっており、

  • ピッチング
  • バッティング
  • 野球における戦術

を科学的に分析しています。興味のある箇所から読むこともできる構成になっています。

時折、専門的な言葉や理論が入ってくることもありますが、平易な言葉でわかり易く伝えたいという川村先生の想いが伝わってくる文体になっているように感じます。

本書からの学び(ピッチング編)

ここからは、私が興味を持った箇所を学びとしていくつかご紹介します。

肩甲骨を動かす習慣を

本書ではどうすれば速い球を投げることができるのかについて言及しており、そのなかで肩甲骨が動かせることが一つの要素であるとしています。

速い球を投げるには「肩甲骨を滑らかに」動かす必要があるのですが、この動きには個人差があるようです。

ここでいう個人差という表現について説明します。

現代社会の中ではパソコンやスマホを利用するといった、手先を使う動作が増え体を大きく動かす機会が減少しています。つまりは肩甲骨を動かす機会が減ったことで、その可動域に個人差が生じているのでは、という仮説を本書では立てています。

これについては私も同意できるところが多く、私自身も学生時代よりも運動機会の減少した今のほうが明らかに動きが悪いです。

子供たちもより速い球を投げることを求めていますので、極力肩甲骨を動かす機会を増やすようにしています。本書でもいくつか例を紹介してくれています。

たとえば、水泳のクロールのような動作です。また、小学校の校庭や公園などにある「雲梯」を、腕を大きく使って猿のように渡ったりすることなどによって鍛えられます。

野球を練習している際には、肩甲骨ストレッチなどは意識的に取り組まれているチームもあるかもしれませんが、日頃の生活の中でも動かす機会を儲けることで、球速アップの可能性が高まるのではないでしょうか。

しっかりと指にボールをかける

球速が速い投手の指の力は、地面の方向に向いていることがわかります。

速い球を投げる投手は、球が遅い投手に比べ、指の力が地面を向いている、つまりはボールをしっかりと指先にかけているそうです。

指先をかけることは、回転数を上げるために意識するのだと思っていましたが、力をボールに伝えるためにも必要なのだと理解しました。一方でやみくもに力をいれればよいわけではないとも言っています。

以下、引用です。

間違ってはいけないのは、やみくもに力をいれればいいのではなく、しっかりと指をボールにかける意識を指先に持つことが大切ということです。

本書を読んでいて、ダイヤのAの中のワンシーンを思い出しました。主人公の沢村栄純くんが「指先一点集中!」と意識して投げているシーンです。

あの練習は科学的にも理にかなっているんだと思いました。余談です・・・。

オーバユースしないために

昨今では投手の過度な投げ込みをさせないような指標が各所で発表されるようになりました。

長く野球を続けるためにもこのオーバユース問題は意識する必要があります。そして、オーバユース以外にもフォームから来る怪我のリスクも考慮する必要があり、本書の中でも言及されています。

私が、本書から捉えた意識すべき点は以下の3つです。

  1. 定められた投球制限を意識する
  2. 肘が肩よりも下がっている状態で投げない
  3. 7〜8割の感覚で投げる

少年野球を指導する中で、意識している点ではありますが、今回再確認ができたように思えます。

本書からの学び(バッティング編)

ここからはバッティング編です。

「直衝突」するバッティングを

バッティング理論は人により様々ですが、私は一番効率の良い打ち方を子供たちに指導したいと考えています。

その中でも意識している点が、「ボールに対して水平にバットを出す」ということです。

一昔前の少年野球では「ゴロを打て!」という指導が主流でしたが、最近ではだいぶ言われなくなりました。その一方で、フライ打法という言葉が流行り、極端にアッパースイングをするような選手も増えてきたように思えます。

感覚は人それぞれですので、その子が納得感をもってその打ち方をしているのであれば良いですが、過度なダウンスイングやアッパースイングを取り入れるのは、私は好ましくないと考えています。

その根拠となるのが、この「直衝突」という考え方です。本書の言葉を引用させて頂き、直衝突を説明します。

「バットの中心とボールの中心を結ぶ線」と「運動量の方向」を合わせてミートすることを直衝突と言います。

この「直衝突」が良いという点をバッティング全体に置きかえ、私がよく使う表現が、先の「ボールに対して水平にバットを出す」という表現です。

同じ意味合いだと捉えていますが、本書では以下のように言っています。(引用が本書の記載と前後していますが、ご容赦ください。)

スピンをかける打ち方よりも、正確にボールの中心とバットの中心を運動量の方向に当てる打ち方のほうがよいと考えられます。

繰り返しですが、バッティングの感覚は人それぞれであり、個人個人に合わせての指導を意識する必要があります。

「直衝突」が良いということは頭に入れておいて、その人に合うスイングや言葉に置き換えて指導するのが良いのではないかと思った次第です。

移動型と回転型

最後と移動型と回転型についてです。

バッティングは移動と回転から力を生み出すと本書でも言っていすが、どちらに比重が置かれるかでバッティングスタイルが異なるようです。(私はそう捉えました。)

言葉の表現としては、移動型を「フロント・レッグ・スタイル」とも言うようです。その代表例がイチロー選手のスイングです。

移動の力をほとんど前の脚(イチロー選手では右脚)に乗せて、後ろ足が浮く打ち方は、「フロント・レッグ・スタイル」と呼ばれています。しかし、どうしても頭部の動きも大きくなって、目線がブレやすくなるという問題点があります。

本書では問題点についても述べていますが、イチロー選手はそれを克服し世界一の安打数を達成しました。努力により問題点を克服する最たる例ではないかと思います。

続いて回転型についてです。本書では松井選手、大谷選手が例として挙げられています。

一方、回転を強調する選手もいます。体重移動は最小限にして、体感を回転させる力を優位にバット・スイングする打ち方です。

この打ち方は「スラッガー」に多い打ち方で、大柄な選手に向いているそうです。

この打ち方は、目線のブレが少なくなることから打ちやすいとされていますが、前述した通り、世界最多安打を誇るイチロー選手は移動型です。こういった所が野球の面白いところでもあります。

私の考えをまとめると、一概に何が良いと決めつけるのではなく、その人の特徴や感覚に合わせたスイングを見つけるというのが正しいのだと個人的には思っています。

ちなみに我が家の例ですと、長男は「回転型」、次男は「移動型」で打っている印象にあります。

小学生の段階では体格変化が大きいこともあり今後変わる可能性がありますが、兄弟でもタイプは違うことを考えると、やはりバッティングは奥が深いですね・・・。

感想

川村先生の書かれる書籍は読みやすく、指導にも活かしやすいことから重宝しています。本書も期待に答えてくださっている内容になっていると思います。

科学的に野球を説明してくださっていますが、データ分析の結果だけに偏った内容でもないことから、まさに丁度良い具合の内容ではないかと思っています。

お子さんが少年野球をやっている、少年野球のコーチをするようになったというお父さんにもオススメの一冊です。私もですが、まずは「新しい少年野球の教科書」から入って、次にこの野球の科学を読むのが良いと思いました。