両利きになるための要素

本記事は、『両利きの経営』(チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン著、以降本書とします。)からの学びをまとめています。

本書では、これまでの事例から両利きの経営になるためには、重要な要素が四つあるとしています。

今回はその四つの要素についてまとめます。

両利きになるための四つの要素

戦略的意図

探索と深化が必要であることを正当化する明確な戦略的意図。探索ユニットが競争優位を築くために利用可能な組織能力や資産を明確にすることも含まれる。

一つ目は「戦略的意図」であると本書では述べており、なぜ探索と深化を同時に進めるのかを理解を促すことが必要であるとしています。

探索は芽が出るまでは赤字事業を抱えているような状況になることから、一つ目に戦略的意図がくることは腑に落ちます。そういった時の観点として、以下のようにアドバイスをしています。

こうした場合の一つのやり方は、企業にとっての戦略的な重要性や、新規事業に競争優位をもたらす形で既存企業の資産(営業チャネル、製造、共通の技術やプラットフォーム、ブランドなど)を活用するか否かの観点で、選択肢を考えてみることだ。

さらに本書では、「戦略的な重要性」と「本業の資産の活用」の二軸で捉えどういった方向性の戦略を取るべきかを説明しています。

その上で、新規事業を担当とするリーダーは六つのと言うに答えるべきだとしています。このあたりは、本書にてご確認下さい。

経営陣の関与と支援

二つめの要素は、経営陣の関与と支援です。

新しいベンチャーの育成と資金供給に経営陣が関与し、監督し、その芽を摘もうとする人々から保護すること。

三つの強みと一つの弱みの記事でも述べましたが、探索ユニットから生まれる新しいサービスは、一見すると深化側の驚異にあたるようなサービスであったり、探索した事業が成功してしまうと深化側の担当者のプレゼンスが下がることから抵抗にあいやすい傾向があります。

そのため、経営陣が探索ユニット側の事業を支え、更には深化側のユニットからの支援を得られやすくする必要があります。本書においても、以下の言葉でこの節を締めています。

戦略的意図とビジョンを徹底的に伝えることは、両利きの経営の成功に不可欠なのだ。

両利きのアーキテクチャー

三つめは、両利きのアーキテクチャーであるとしています。

ここで言うアーキテクチャーは組織設計を指している意味合いが強く、探索ユニットが深化側の資産や組織能力を活用しやすくするために組織体制や制度を見直す必要があること示唆しています。以下、引用です。

企業内の成熟部門が持つ重要な資産や組織能力を活用するのに必要な組織的インターフェースを注意深く設計すること。

これには、どの時点で探索ユニットを打ち切るか、あるいは、組織に再編入するかに関する明確な判断基準も含まれる。

両利き形態で組織を運営することのメリットとしては、成熟事業の組織能力を活用できることにあります。

うまく深化側のユニットの資産や技術を活用できれば、スピンアウトして単独で運営するときに比べ早く成果を出したり、事業の成功確率を高めることができます。

機能にまたがって責任を分散させる機能横断型チーム設計と違って、両利き形態であれば、厳密な焦点と大組織の資源活用の機会を両立させることができる。

・・・、探索ユニットが十分に大きくなり、顧客と組織内での正当性が認められ、戦略的に実行可能であることが証明されたならば、既存ユニットに戻して融合を図っても良い。

探索ユニットを新たな事業の軸にするためには、それを受け入れるための仕組みが必要ですので、両利きのアーキテクチャーを重要な要素の一つとするのは頷けるのではないでしょうか。

共通のアイデンティティ

最後は共通のアイデンティティであるとしており、探索側と深化側に跨るビジョンを持つことが必要であるとしています。

探索ユニットや深化ユニットにまたがって、共通のアイデンティティをもたらすビジョン、価値観、文化。こうしたものがあると、全員を巻き込み、同じチームの仲間だという意識を持つのに役立つ。

探索側と深化側双方の協力が必要であるということが正当化されれば、探索事業と深化事業の対立や脅威とみなすような事がなくなっていきます。

こうした概念的なものは長期的に培っていくものであることから、常日頃から従業員に対し起業家精神を持つように意識づけをすると言ったことも一つの手かもしれません。

一つでも欠けては両利きは成り立たない

以上が四つの要素です。この章の締めくくりとして本書においても、このどれか一つでも欠けてしまっては両利きの経営が成り立たないことを示唆しています。

探索と深化を両立するのだという明確な戦略を持ち、それを引っ張っていく経営陣の強いリーダーシップと関与、探索と深化が共存できるようにするための組織設計、各々を敵対視しないように共通のビジョンを持つこと、これらが全てそろって初めて両利きの経営が実現するのだと理解することができました。

逆説的に捉えると、それだけ両利きの経営は難しいものであるのかも知れません。しかし、VUCAな時代においては、市場の変化も早く、破壊的イノベーションを生む技術がいつ生まれるかもわかりません。そうした、情勢も視野に両利きの経営を実現することが今後の企業、特に大企業には求められるのだと思います。