三つの強みと一つの弱み
本記事は、『両利きの経営』(チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン著、以降本書とします。)からの学びをまとめています。
本書では両利きの経営のイノベーションストーリーとして六つの事例を紹介しています。
- USAトゥデイ ー新聞を自己改革する
- チバビジョン ー探索に命運をかける
- フレクストロニクス ースタートアップを育てる
- ダビィータ ー新規事業に挑む
- ヒューレット・パッカードのスキャナ部門 ー準部門を活用する
- サイプレス・セミコンダクター ー起業家連合を形成する
これらの事例を通し、三つの強みと一つの弱みをその総括として挙げています。
今回はその三つの強みと一つの弱みについてまとめます。
三つの強みと一つの弱み
三つの強みと一つの弱みのうち、まずは三つの強みについてまとめます。
三つの強み
探索ユニットが深化側の資産を活用できる
探索ユニットが大組織の資産を活用でき、それが競争優位につながった、ということだ。その資産とは技術的資産(・・・)や、ブランドや顧客へのアクセス(・・・)である。
1つ目の強みは探索を行うユニットが深化側の資産をうまく活用できていたという点にあります。
探索ユニットを完全に切り出してしまうと、与えられた予算が限られてしまう、顧客開拓を新たにしなければならない、深化側の協力を得られない、といった問題が生じ設定された期間内での成果があげにくくなってしまいます。
一方で、探索側のユニットが深化側の資産を利用できるようになることで、探索の成功確率が高まります。本書では以下のように述べています。
両利きの経営の真の優位性は、新参者の競合他社が持っていない、あるいは、新たに開発しないといけない資産や組織能力を使って、ベンチャーが有利なスタートを切れるところにあるのだ。
上位層が支援していた
二つめの強みは、探索を上位層が支援していたという点です。
探索ユニットから生まれる新しいサービスは、一見すると深化側の驚異にあたるようなサービスであったり、探索した事業が成功してしまうと深化側の担当者のプレゼンスが下がることから抵抗にあいやすい傾向があります。
USAトゥデイ社の事例のような、新聞社におけるコンテンツのオンラインでのニュース配信事業などがわかりやすい事例かと思います。
そういった探索における脅威を排除するために、上位層が直接的に探索側の事業を支援する、探索側の一定の独立性を保ちつつ、探索側が深化側とうまく統合を図れるようにするといったことを行うことが成功の鍵となります。
この点について、本書から引用させて頂きます。
経営陣が果たすもう一つの重要な役割は、新規事業と成熟事業の間のインターフェースを管理して、必ずおこってしまう対立を解決することだ。両利きの経営の付加価値は、成熟事業の貴重な資源を新規事業に適用できるところにある。
探索ユニットを大組織から分離させる
三つめの強みは、探索ユニットが深化側のユニットから分離されていたという点にあります。
分離するメリットとしては、探索側のユニットがこれまで通りのやり方や考え方に縛られることなく、新しい視点、手法で自由に探索を行えることにあります。
古い構造やプロセスから開放され、新しいスタートを切る上で、こうした分離はきわめて重要だったと、新規事業のリーダーたちは強調している。
このように距離を置かないと、古いマインドセットから生じる惰性によって、新規事業の成長に必要な焦点がぼやけ、熱量の低下を招きかねないのだ。
探索を成功に導くためには、一つ目の強みにあるように既存資産をうまく活用しつつ、その一方で自由に探索ができるように独立性を保つ必要があります。
そのバランスをうまく経営陣がとることで、探索側の成功確率を高めることができるようになることが三つの強みから学びとれました。
一つの弱み
最後に弱み側です。本書が一点懸念している点というのは、これらの成功が人に依存するものなのではないかという点です。
両利きの経営が組織能力だとすれば、反復可能であってしかるべきで、一回限りで終わってはならない。ここで紹介した事例について気がかりな点があるとすれば、その成果がプロセスよりも、むしろ属人的努力の賜物であることだ。
探索事業は一見するとサービスが安定するまでは投資を続けることとなります。それをどれだけCEOが必要であるかを理解し熟すまで待つことができるかが重要となります。
つまりは、CEOが探索を行う事業をどれだけ重要視するかで探索側への資源量が変わることから、探索側を成功に導くための標準的なプロセスというものは、まだ確立できていないというのが私の捉えた理解です。
これら三つの強みと一つの弱みは、両利きの経営を理解する上で重要だと感じています。事例から抽出された探索と深化の特性をうまくまとめられていると感じた箇所でした。