イノベーションストリームの四象限

本記事は、『両利きの経営』(チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン著、以降本書とします。)からの学びをまとめています。

今回は市場と組織能力の軸でイノベーションを考察する、イノベーションストリームの四象限についてまとめます。

イノベーションの四象限

本書では、イノベーションを起こすときには、以下の2つの場合があると説明しています。

イノベーションを起こす時には、①新しい組織能力を身につける必要がある場合(新しい技術やビジネスモデルなど)と、②新しい市場・顧客の組み合わせに対応する場合(顧客インサイトがない場合など)があった。

この2つのうち、①を組織能力、②を市場として四象限に分けることでイノベーションストリームの説明がなされています。

領域A:既存の組織能力を拡大、既存の市場

この領域については、本書では以下のように述べています。

ほとんどの企業ではほほ常に、すでに知っている顧客・市場を対象に既存の技術を拡張していくことでイノベーションは起こる。・・・、既存の組織能力と市場に関する知識に基づいているので、基本的に深化にあたる。

既存の市場に対して、より良いものを提供していくという点でイノベーションを起こしていく領域であると私は捉えています。そのため、新しい人材や技術といったことは求められないことが多く、既存の組織内の人材と技術で対応することができる領域です。

領域B:新しい組織能力、新しい市場

本書では、この領域が最も破壊的で驚異となる変化があるとしています。

参考事例として、クォーツ時計の出現の例や新聞社の紙からWeb媒体へのニュース配信への事例を紹介されています。この領域では、今まで企業が培ってきた技術も通用しないことから、いわゆる新しい風を企業に取り入れる必要があります。

整合性モデルの観点でいうと、異なる戦略、異なるKSF、異なる人材とスキル、異なる組織構造や文化を意味する。要するに低利益率に製品に対して過度な労力をかけていると見えるほどの抜本的な移行が求められるのだ。

この領域でイノベーションを生み出すためには、相当の覚悟が必要であり、芽が出るまでの間の赤字採算も覚悟しなければならないでしょう。そのため、既存事業で成功している企業は待ちの姿勢を取るようになり、結果的に時代の流れについていけなくなるという状況に陥ることもあるようです。

本書では新しい組織能力を獲得し、開発することも過大であると述べています。

これには通常、既存の従業員とは異なるモチベーションや新しいスキルを持った人々を雇いいれること、試行錯誤をしながら学習し、社内で新しい組織能力を開発すること、新しい文化の融合も伴う企業合併やライセンス許諾を通じて獲得することなどを組み合わせなくてはならない。

これは読んだ後の私の所感ですが、この領域はスタートアップ企業の方が挑戦しやすい領域なのだと考えます。自組織の中には、この領域に対応する人材も技術もないため、企業が対象としたい市場を相手にすることを得意とする人たちと組むというのは合理的な戦略だと考えます。

一方で、既存の組織能力と離れすぎた風土や考え方を持つ企業や人材を自社に取り入れることは、既存側の抵抗を受けることから、そのバランスをとりつつ理解を得ることは簡単ではありません。そういった苦悩がまさに探索の難しさなのでしょう。

領域C:新しい組織能力、既存の市場

この領域は既存の市場に対してイノベーションを起こしていくということから、領域Bよりは難易度は低くなると本書でも述べています。事例としては、DVD郵送レンタルから動画配信への事業変換の例があります。ネットフリックス社の例をとり、本書では以下のように述べています。

ネットフリックスは自前でコンテンツ制作も初めている。それが成功しているのは、成熟して衰退にむかいつつある事業を運営する能力と、動画のインターネット配信という新規事業を成長させる能力を同社の経営陣が併せ持っていたからだ。

市場が既存の市場であることから、顧客関係を維持しつつ新しい技術に投資し新サービスを生み出す必要があります。本書でも二つの別々の組織や文化をうまく調整する必要があることを指摘しています。経営陣には深化により既存の市場を維持しつつ、時代の動向を捉えつつ探索を進める事が求められることになります。

領域D:既存の組織能力、新しい市場

領域Dでは既存の組織能力を用いて新しい市場に打って出るというということになります。今ある組織能力を駆使して新しい市場にイノベーションを起こしていくという点から、新しい市場における顧客ニーズを捉える必要があります。

本書では航空業界のLCC事業の例を挙げて説明をしています。

LCC事業の成功の鍵の一つは、利用可能な座席や距離当たりのコストをいかに抑えるかだ。・・・、そのためには、大手の文化にはなかった一定レベルのチームワークと緊急性が求められる。そして結果はというと、全くこうした取り組みができなかったのだ。

マクロに見ると移動手段を提供するといった、同じサービスを提供しているように見えてもその中身は全く異なります。顧客がどういった価値を求めているか、これまで顧客に対してどういった価値を提供してきたかが、この領域を考える上での焦点になっています。

格安航空会社の経営では、フルサービスの航空会社の経営とは異なる調整が必要とされる。前者の場合、スピードと柔軟性が鍵となるが、サービスはそうでもない。対象的にフルサービスの航空会社では、高い料金を支払ってくれる顧客の心をつかんだり、サービスやアメニティを提供したりすることが鍵となる。・・・、二つの組織では人材、指標、インセンティブ、文化のタイプが全く異なっているのだ。

個人間でも高級でも品質や価値を重視する人とコストや効率性を重視する人がいます。その人達の考え方や求めるものは異なることから、これまで前者を求める人達にサービスを提供していた組織が、相反する嗜好を求める顧客に対してサービスを提供するというのは根本的に顧客のニーズを理解しない限り、事業成功は遠いのかも知れません。

わかりやすく事象を整理する

以上が、イノベーションストリームの四象限になります。市場と組織能力を基に二軸で考察することでこれだけのインサイトを得られるという点自体も、学びの一つとなりました。

評価したい軸を設定し、その象限毎に事例収集や分析をしていくというのは実ビジネスの世界においても役に立つアプローチだと思います。

そういった点においても学びのあったパートでした。