アマゾンの探索と深化のモデル

本記事は、『両利きの経営』(チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン著、以降本書とします。)からの学びをまとめています。

アマゾンは1994年にアマゾン・ドット・コムを法人化した後、オンライン書籍販売から始まり、製品の保管や配送を代行する流通サービス、動画配信、コンテンツ制作、更にはクラウド・コンピューティングの提供など多岐にわたるサービスを提供しています。

本書ではその背景には、リーダーシップと両利きの組織のストーリーがあると述べており、探索と深化の好例として取り上げられています。以下、一部引用します。

アマゾンがどのようにこうした変革を成し遂げたかを明らかにしていくと、既存の資産を活用しながら新しい機械を探索することで、絶えず自社を再発見してきた方法もわかってくる。

今回はその学びとして、アマゾンの探索と深化のモデルについて触れていきます。

アマゾンの三段階の進化

アマゾンは探索と深化によって成長を続けてきましたが、本書では3つのフェーズにわけて紹介しています。

フェーズ1(1994-2000)

フェーズ1は書店からオンライン・スーパーストアへの変遷です。

ジェフ・ベゾス氏は顧客とメーカーの間の仲介者となり、世界中のほぼあらゆる種類の商品を販売するインターネット会社になることを目指しました。その中で最初に導入したのが、顧客が本を注文すると、アマゾンが書籍卸経由で本を購入し、顧客に配送するモデルです。

このモデルの素晴らしさを本書では以下のように述べています。

このモデルの素晴らしさは、アマゾンは在庫を持たずに膨大な選択肢を提供し、未払費用を含んだ営業差益が生じるところにある。(アマゾンの顧客は本の配送前に支払うが、卸売業者との決済は月末締めである。)

アマゾンは書籍卸経由での販売にしたことで、在庫を持たなくて良くなり膨大な商品を提供できるビジネスモデルのきっかけを作りました。そこには物販で儲けるのではなく、顧客の購買決定を手伝うことで儲けるというベゾス氏の哲学が盛り込まれています。その最たるものが、今では当たり前になった書評(レビュー)です。

これまでは社内編集者が書いていた書評を顧客自らがかけるようにして、他の人がその書籍に対してどう思っているのかを公開することで書籍選びの参考にするという付加価値を提供することに成功します。

こうして売上を拡大していきますが、その急速な成長により在庫や配送で混乱が生じるようになります。そこで次に着手したのが倉庫設備やフルフィルメント技術に投資を行うようになります。その一方で、今では当たり前となっている、アマゾン・アフィリエイトプログラムを用意しアマゾンの認知度向上にも成功しています。

この投資により、物流のキャパシティが増え、いよいよ書籍以外の販売にも拡大していきます。1997年のことです。アマゾンは音楽やDVD販売も展開するようになり、他の小売業者とパートナーシップ契約を結ぶようになりました。

フェーズ2(2001-2005)

フェーズ2では、アマゾンは自前の商品を販売するだけなく、他の小売業者がそれぞれの商品を販売できるオンライン・プラットフォームを提供するようになります。もはや他社に類を見ないくらいの商品を扱うようになり、さらには店舗を持たないことで他社に比べ安いく提供できる低価格も合いまり、様々なサードパーティ業者がアマゾンを利用するようになりました。

この頃には物流能力の強化もなされ、売り手がアマゾンのフルフィルメント・センターに預けてそこから出荷できるようになり、アマゾンは小売業者向けのプラットフォームへと転身を果たします。またこの頃、アマゾン・プライムが登場しています。

物流能力の強化については、アマゾン内でもコアコンピタンスとするか議論があったようです。そのあたりは、ぜひ本書にてご確認下さい。

フェーズ3(2006年以降)

最後のフェーズでは、いよいよクラウド・コンピューティング事業の話が登場します。オンライン小売業向けの技術プラットフォームになるためには、システムの刷新も必要でした。

本書で紹介されているのは、「EC2」というサービスで現在のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)となっているサービスです。アマゾンサーバー上であらゆるアプリケーションを動かせるEC2は、もともと社内の開発スピードを上げるために設計されたものですが、社外開発者向けにも提供することで、AWSはもはや業界標準となっているようなサービスになっています。

意図的なダーウィン論

アマゾンの探索と深化モデルの締めくくりとして、アマゾンは「意図的なダーウィン論」という文化を築いてきたと本書は述べています。以下にその一説を引用させていただきます。

それは、顧客満足へのこだわり、行動変調、実験の繰り返し、倹約、直接的なフィードバック、継続的な結果測定を重視する文化だ。

ここまでの道のりは平坦ではありませんでしたが、この企業文化を築いてきたからこそ今のアマゾンがあります。顧客満足を追求する中で、成熟事業を改善できるよう深化を続け、その一方で新規事業に投資を行い探索を続けてきたことが今の成功を生んでいるのだと学びました。

成功を支えた五つの鍵

アマゾンの成功は非常に興味深い事例ですし、ストーリー感があり面白い内容でした。

本書ではそのまとめとして、アマゾンの戦略を成功に導いてきた要素として五つの鍵があるとしています。詳しくは割愛しますが、キーワードだけご紹介します。

  1. 全体的な戦略意図
  2. 企業のミッションと価値観が明確
  3. 非常に足並みの揃ったシェア・チーム
  4. 両利き組織の形態
  5. 葛藤を許容する能力

最後に印象的なベゾス氏の言葉を引用し記事を終えたいと思います。

「ゆっくりと安定的に進んでいけば、時間とともに、どのような挑戦にも食い込んでいける。(中略)私がすべてのアイディアをもっているわけではない。それが私の役割ではない。私の役割は、イノベーションの文化を構築することだ。」