AI vs 教科書が読めない子供達

「AI vs 教科書が読めない子供達」という本を読みました。

新井紀子さんという方が著者で、色々と考えさせられる一冊だったような気がします。

概要紹介

4章構成なのですが、大きくは、

  • 東ロボくん(東大受験を目指すAI)ストーリー
  • 教科書が読めない子供達への課題提起

という印象が強いです。

本書の訴えたい点というのは後者だと思っていますので、あまりAIの説明に興味が無い方は、前半は流し読みでも良いかもしれません。

私も3章からの方が惹き込まれ、読みながら考えさせられる事が多くありました。

本書からの学び

私が本書の中で興味を持った箇所を、学びとしていくつかご紹介します。

数学がわかればAIに何ができるかわかる

世の中ではAIという表現が至る所で踊っています。

AIさえあれば何でもできる、AIを取り入れていないのは時代遅れだという印象さえあります。しかし、AIの元となっているのは数学であり、計算式に落とし込めないものはAIとして判別できません。

ということは、数学の知識があればAIで何ができるか想像がつくということを示唆してくれています。

本書の具体的な例としては、IBMのワトソンがどういった動きをしているかを推察するというシーンがありました。そして実際その通りに動いていることを的中させています。

論理がわかればどんな実装をしているかがわからなくてもそのプログラムの動きがわかるというのと似た感覚かもしれません。

以下に該当の一節を紹介します。

コンピューターはすべて数学でできています。AIは単なるソフトウェアですから、やはり数学だけでできています。

数学さえわかっていれば、AIに何ができるか、そして何ができないはずかは、実物を見なくてもある程度想像がつくのです。

コンピュータは計算機、できることは四則演算だけ

Siriやアレクサなどを利用していると、あたかもAIが意志を持って返答をしているような気にしてくれるかもしれませんが、AIは意味を理解しているわけではありません。

特にコンピュータを理解しないまま使っている子供たちに伝えたい点でもありますが、AIの回答は全て計算結果によって返されます。

この意識があるのとないのとでは、AIに対する見方が変わってきますのでこの点はしっかりと私の子供達にも伝えたいと思った所です。

コンピューターは計算機なのです。計算機ですから、できることは基本的には四則演算だけです。

AIには、意味を理解できる仕組みが入っているわけではなくて、あくまでも、「あたかも意味を理解しているようなふり」をしているのです。

この引用はとても的を得ており、どれだけ意味をわかっているような返答をしていても、それはAIが計算式から導き出された答えを回答しているだけに過ぎません。

その意識を持って、AIと接していくことが今後必要になってくるでしょう。

基礎読解力が足りない子供達

本書のタイトルにもある、「教科書が読めない子供達」ですが、なぜそう判断したのかが、本書の後半に書かれています。

将来的にAIにとって変わられてしまう仕事以外に、人間はどういった仕事に就けるのかというと、それは、

jコミュニケーション能力や理解力を求められる仕事や、介護や畦の草抜きのような柔軟な判断力が求められる肉体労働が多そう

であると述べられており、今後は、

高度な読解力と常識、加えて人間らしい柔軟な判断が要求される分野

が仕事として残っていくだろうとしています。

そのため、現代社会に生きる私達は、AIには肩代わりできない種類の仕事をうまくやっていけるだけの読解力や常識を持ち合わせていかなければなりません。

しかし、今の子供達はその力が身についていないのではないかという危機意識から、全国の中高生にテストを行い、その実態を調査するに至っています。

一つだけ問題例を紹介したいと思います。私が印象に残った問題は以下の問題です。

次の文を読みなさい。

Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。

この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。


Alexandraの愛称は()である。

①Alex ②Alexander ③男性 ④女性

この問題は「愛称」という言葉の意味がわかっていれば正解できる問題で、答えは①です。しかしながらこの問題に正解した中学生は38%、高校生は65%しかいません。

つまり、中学生の6割、高校生の3割は「愛称」という言葉の意味が分からず、文章を読み飛ばしてしまっているということになります。

これは「係り受け」という類の設問ですが、著者の新井さんは、以下の6つの分野でテストを構成しています。これらのテストはRST(リーディングスキルテスト)と呼ばれています。

  • AIの得意な「係り受け」、「照応」
  • AIには難しいとされる「同義文判定」、「推論」、「イメージ同定」、「具体例同定」

新井さんの言葉を借りつつ最終的な結果をお話しすると、「係り受け」、「照応」の問題はそこそこできていますが、AIには難しいとされる残りの分野の正答率は目を覆いたくなるような結果となっています。

さらに新井さんはそこからもっと踏み込んでおり、基礎的な読解力と子供達の学力の関係についても述べられていますが、ここでは詳細は割愛します。

一つだけ取り上げるとすると、基礎読解力を高めるには、教科書が読める読解力が必要であるとしており、文章を正確に理解する能力を身につけることが必要だとしています。

この辺りは、是非とも本書を読んで頂ければと思います。

感想

AIが台頭する将来を見据えた、非常に興味深い一冊でした。

教科書が読めない子供達という、メッセージ性の強いタイトルですが、その根拠をしっかりと数字をもとに論理展開されているところはさすが数学者の方だと感じます。

教科書が読めないという事実は、子供たちだけでなく、今の社会を支える私達にも当てはまるのではないでしょうか。事実、私自身も仕事で読む文章を正しく理解できているのかという疑問は常に付き纏います。

基礎読解力という全ての学問の土台になるような力は、いつの時代にも必要となる力であり、磨いていかなければならない力だと私は考えます。

そのため本書にもありますが、英語学習やプログラミングなど時代に即した学習も必要だと騒がれる社会ですが、まず身につけるべきはこうした基礎読解力のような力なのかもしれません。

こうした読書からのインプットを踏まえ、私自身の自己研鑽や子供達への教育へ活かしていくつもりです。

本書には続きがあるようで、「AIに負けない子どもを育てる」という書籍が2019年に発売されています。機会があれば続編にも目を通したいと思いました。