スポーツコーチング型PMモデル
少年野球指導の現場では、様々なタイプの子供達が野球をやりたいと各チームの門戸を叩きに来てくれていることと思います。その中でそれぞれの子供達を一様に指導することは事実上不可能で、さらには経験年数の差や学年によっても技術レベルにばらつきが生じます。
そういった状況においても各少年野球の監督・コーチを担う方は選手の成長を第一に考え行動をしていく必要があります。
実際の現場におけるコーチングでは「指導行動」と「育成行動」を使い分けることで、選手にとって最適な指導を模索することが良いとされており、その使い分けの基準となるモデルに「スポーツコーチング型PMモデル」というものがあります。
今回はこの「スポーツコーチング型PMモデル」についてご紹介させて頂きます。
私は元プロ野球選手の吉井理人さんの著書、「最高のコーチは教えない」から学ばせていただいております。
まずはじめに、そもそものPMモデルとはなにかという話から始めます。
PMモデルの「PM」とはパフォーマンス(職務遂行機能)とメンテナンス(集団維持機能)という2つの側面から類似化したリーダシップ論であり、社会心理学者の三隅二不二さんが提唱しました。
それを筑波大学の図子浩二教授が、これに指導行動と育成行動と当てはめ、スポーツコーチングに応用してモデル化したものがスポーツコーチング型PMモデルです。なお、こちらが図子浩二教授の論文です。
スポーツコーチング型PMモデルの四つのステージ
※図の下部の行動名が誤っていたため、修正しました。(2021年12月24日)
スポーツコーチング型PMモデルにおいては以下の四つのステージが存在します。
- 第一ステージ:指導型コーチングスタイル
- 第二ステージ:指導・育成型コーチングスタイル
- 第三ステージ:育成型コーチングスタイル
- 第四ステージ:パートナーシップ型コーチングスタイル
各選手がこのそれぞれのステージのどの段階にいるのかということをコーチは見極める事が重要になってきます。
吉井さんの著書によるとPMモデルは「ものさし」として活用すること推奨されており、とにかく指導対象の選手を観察することの重要性を説いています。
私が捉えた理解では、自分が指導する対象の中(例えば少年野球であればチーム内に所属する小学生など)で、このPMモデルを当てはめ、指導対象の選手がどの段階にいるかを分類するといった使い方をするのが良いのではないかと考えています。
以降では各ステージの考え方を紹介するにあたり、少年野球において私がどう捉えているかもご紹介していきますので、少年野球コーチの方の参考になれば幸いです。
第一ステージ:指導型コーチングスタイル
このステージの対象は主に初心者です。プロ野球であれば高卒ルーキーから三年目あたり、ビジネスでは新入社員から入社二、三年目までが対象となります。(以降は「選手」という表現で統一しますが、ビジネスにおいては「社員」と読み替えてください。)
この段階では基本的なことがわかっていない状態の選手を指導しますので、このステージに該当する選手は技術の基本を丁寧に教えていく必要があります。
私が捉える少年野球におけるこのステージに該当する選手は、まさに入部したての子供達が該当します。
入部したての子供達には野球の技術だけでなく、監督/コーチや保護者の方へに向けた言葉使いや礼儀作法、チーム内における集団における過ごし方、そして何より野球が楽しい、このチームのみんなと一緒にいることが楽しいと思ってもらうことが重要であると考えます。
第二ステージ:指導・育成型コーチングスタイル
このステージの中級者段階の選手が対象となる領域です。吉井さんの考え方としては、プロ野球においては一~二軍を行き来している選手が該当するとのことです。ビジネスにおいては20後半~30前半くらいの主任・係長クラスが対象になります。
この段階においてはある程度経験もつみ技術力も向上しつつありますが、未熟と感じる箇所については指導行動も行います。ですが、重視すべきは育成行動側で、この時期の選手は達成すべき課題の難易度も上がっているため、人間力を高める育成行動の言葉がけ多くなってきます。
このステージの選手には相手の心情に配慮した指導を心がける必要があります。選手のモチベーションが下がらような工夫を考え、手間をかけてでも実践をしていく必要があります。
少年野球チームで考えるのであれば、上級生の試合に出れるか出れないかといった瀬戸際にいる選手が該当します。技術的な指導を行いつつ、試合に出るための努力を諦めさせない育成行動も必要になってくるでしょう。
第三ステージ:育成型コーチングスタイル
このステージでは、中上級者の選手を対象として技術やスキルはそれなりに完成の域に達し、そのために自身とプライドがかなり高くなっているような選手が対象となります。その一方で精神的に成熟する段階に至っていないことから、いろいろと迷ってしまう時期でもあります。そのため技術的な指導より育成行動の指導を中心としてコーチングを行っていくステージとなります。
少年野球チームに当てはめるのであれば、上級生の試合でレギュラーになっている子供達が該当すると考えています。ただし、まだまだ精神面では未熟なことから育成的観点の言葉をかけつつ指導を続けるのが良いと考えます。
第四ステージ:パートナーシップ型コーチングスタイル
最後のステージは、上級者段階の選手を対象とします。このステージに至っている選手に対してはコーチはほとんど何もすることがありません。
コーチとしては何かあったときの「相談役」としてそばに寄り添あげるだけで問題有りません。ただし、何か問題が起きたときに出てくる課題が高度なため注意が必要です。さらにはコーチを試すような質問も投げかけてくることがあります。
吉井さんの著書においても、このステージに居る選手はほとんどいないと言っており、ダルビッシュ選手やサファテ選手くらいが該当するのことです。少年野球においてもこのステージにいる選手はいないと言って良いでしょう。
「ものさし」として利用し、コーチの基本行動として取り入れる
基本的にコーチングはこの四つのステージに分類して指導を使い分けていきます。
選手がどこからどのステージに移動したかを見極めるのもコーチに課せられた重要な仕事になります。吉井さんとしては、選手の行動に変化が生じた時に自分の考えを整理する意味でこのマトリクスを使ってほしいと言っています。
私もこの使い方は腑に落ちており、各選手がどのステージにいるかを分類しそのステージ毎に指導方法を使い分けるということを私も行い初めています。
これは野球だけでなくビジネスの実業務においても活用しておりけっこうしっくりきています。
様々な場面で活用ができるかと思いますので、「いいな、これ!」と思われる方がいらっしゃれば利用してみてください。