涙の意味

先日、山百合友遊ボール大会と言われる、小学校三年生以下の子供達だけで行われる大会が開催されました。


千葉県では低学年向けには、友遊ボールが盛んで低学年の子供達にとっては重要な意味合いを持つ大会となっています。

 

その友遊ボール大会において、この山百合友遊ボール大会は、三年生における最後の大会となります。

 


今回は今年キャプテンを務めた三年生のお話です。

年長の頃からお兄ちゃんに連れられて、野球のグランドに来てくれていましたが、とても恥ずかしがりやさんで、初めの頃は練習に加わることもできないくらいシャイな子でした。

 

それでも一年生になる少し前くらいから少しずつ練習の場に慣れていき、同級生がいない代わりに、上級生の子供達と仲良くなり友遊ボールの練習に参加してくれるようになりました。

 

背が小さめな代わりに身体能力が高く、二年生になる頃には、友遊ボールの大会においてもチームに欠かせない存在になっていました。特に走力においては上級生にも負けない速さでした。

 

 

そんな彼が二年生の時です。

 


今から約一年前に行われた大会においては、決勝トーナメント出場をかけた大会で惜しくも敗れ、仲の良かった上級生達が友遊ボールを卒業することになりました。

 

その状況を理解してか、最期の友遊ボール大会を終え、涙する三年生にまじり、一際大きな涙を流す彼がいました。

 

 

(もうみんなと一緒に友遊ボールできないんだ…)

 

 

そう思ったのでしょう。感極まったその子は、しばらくの間涙を止めることはできませんでした。

 

 


それから一年。


精神的にも成長した彼は、今度はキャプテンとして、もう一度同じ大会に挑みます。

 

今回の大会における対戦相手は、私の目から見てもかなりの激戦区になることが予想されていました。

 

そんな中行われた一回戦、最初に相手も非常に強いチームで、試合は最後まで均衡し、延長サドンデスルールが適用されるまでの展開になりました。

後攻だった我々も何とかツーアウト満塁まで持ち込みましたが、一歩及ばず敗退を喫しました。

 


全力を尽くし戦った子供達からは、悔し涙が流れ、キャプテンだった彼の目にも涙が溢れます。


ですが、それは一年前とはまるで意味が違う涙でした。

 

 

「勝てなくて悔しい」

 

 

その涙の意味は、キャプテンとしてみんなを勝利に導けなかった悔し涙に変わりました。

 

そしてその日、もう一度彼は涙を流します。

それは友遊ボール最後の試合終了後でした。

 


最後の対戦相手は、隣市の市内優勝チーム。周りからみれば、勝利予想は相手に軍配が上がる相手です。

ですが、この試合にかける三年生の熱意は驚くべきものでした。

 

それを示すように、試合展開はまたも手に汗握る展開となりました。
後攻だった我々は、相手が得点した分だけ取り返すというシーソーゲームになりました。

 

そして二点ビハインドで迎えた最終回、ツーアウトランナー無しとなり、絶望的な状況でも彼らが諦めることはありませんでした。

なんとかそこから安打を続け、ついに同点にまで追いつきます。

 


そこで迎えるバッターは、キャプテンの彼でした。

 

隣市優勝チームでもある相手チームは守備力も高く、確実な安打を打たないと逆転はない状況でした。

そこで選んだ彼の選択は、彼の持ち味を活かすセーフティースクイズでした。

 

 

一塁線の転がるボールを横目に、全力疾走で一塁まで駆け抜け同時に三塁ランナーもホームイン。サヨナラ勝ちを得た瞬間でした。

 


明らかに格上だと思っていた相手に勝利することができ、歓喜するメンバー達。

その輪の中に入るキャプテンの彼の目には、もう一度熱い涙が溢れていました。

 


それは一年前に流した涙とも違う、初戦に敗れてしまったものとも異なる、喜びの涙でした。

 

流す涙は同じでも、その流した涙の意味はまったく別ものに生まれ変わりました。

 

 


試合終了後、みんなと一日を振り返った時の彼の顔はとても清々しい顔をしていました。

一年前とはまったく別人の、次のステップへ進む事を決意した、立派な野球人としての顔つきをしていました。

 


私は年長の頃から彼を見ていることから、その成長した姿を目の当たりにできたことに感極まると共に、少年野球に携わることができた本当に良かったと感じることのできた瞬間でした。

 

 

そして、その彼の熱い想いは、次のキャプテンの二年生に引き継がれました。

 

 


その時の顔にもう涙はありません。

 

 

次の舞台を目指す彼の表情は、満面の笑みに変わっていました。

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